第2回【富士山と山小屋】


【富士山と山小屋】

 最近まであまり考えても見なかったのですが、富士山の山小屋というのは、一般の登
山者に言わせると最悪であるという意見が大勢であるようです。
 登山者としても、また、登山者の世話をする側としても、富士山の山小屋に関わった
ものとして、すこしお話したいと思います。

 富士山の山開きの7月1日から8月の末までが、富士山の山小屋が開いている登山シ
ーズンです。その内、梅雨明け後の7月下旬から旧盆の8月中旬までの正味1ヶ月が実
質的なシーズンとなります。一年12ヶ月の内、実質稼働が1ヶ月、山小屋の経営者か
らみると、この一ヶ月がかき入れ時、せいぜい稼ごうという気持ちになるのでしょうか。 
山慣れた人は、まずこの時期に富士山をねらいません。従って普段山に登らない人や、
一生に一度は登ってみたいという人がやってきます。リピーターを考えない商売がまか
りとおる理由です。山という環境で、食住に関して持てる者と持たざる者、需要と供給
の関係で、主客転倒が起こることも想像に難くありません。
 それでは、どうすればよいでしょか?一番簡単なのは、富士山に登らないことです。
それでも、登りたいときは? これからが本題です。

 そもそも私が初めて富士山に登ろうと思ったのは、御殿場の富士登山駅伝が復活して
テレビで放送されたのを見た頃でした。いくつか有る登山道の内、バスの交通費が安か
ったことにより、御殿場口から登ることに決めました。当時、小屋に止まるという発想
がなかったので、ツェルトとガスコンロ、食料一式を背負って日本一の標高差の登山道
に挑みました。
 今考えると無謀ですが、新五合目を夕方に発って、途中で仮眠を取り日の出までには
頂上に到達するという計画でした。しかし、途中から降り始めた雨がだんだん強くなり、
途中でビバーク、しかし風と雨の中でこのままでは遭難か?と思ったとき、頭上に光る
山小屋のあかり、荷物を残して山小屋にかけ込みました。途中までいっしょで、先に登
って行った人が、山小屋の主人にまだ登っている人がいると伝えて、発電機を回して電
気をつけてくれたのでした。山小屋のコタツに入って服を乾かして、やっとひと心地つ
いたところで、山小屋が有って良かったなあと思ったのが、富士山の山小屋との出会で
した。
 その後、大学生になって、アルバイト情報誌で見つけた山小屋アルバイト募集の広告
に応募して、毎年の夏休みに山小屋で暮らすようになりました。
 
 そこで最初の問題に戻ります。どうしても富士山に登りたい、しかし混雑は嫌いだと
いう人はどうすればよいか? 「人気のない登山道のすいている山小屋に行く」という
のが、需要と供給の問題に照らして正解です。
 でも標高差が辛いという方のための、裏道情報は改めて紹介します。

                                第2回終わり
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First issue Aug. 6 1996(Rev.0)