几號高低測量(明治水準点)



奥州街道と明治水準点(地形図作成事業の夜明け)


 今日の高度な社会は、様々な分野において、歴史的遺産を積み重ねながら発展して きたことは、今さら言うまでもないし、私達が携わっている測量及び地図作成の分野 においても例外ではない。それは、開国して間もない明治初期、当時厳しい経済状態 であったにもかかわらず、高額の投資によるお雇外国人や高学歴の人材を集め、ある いは教育しながら国の一大事業「地図作り」に取り組んだ貴重な歴史の遺産がある。  わが国における近代的な地図作成のための基礎となる三角測量や、水準測量のほと んどは、明治17年(1884)に設立された陸軍参謀本部陸地測量部の手によって 行われた。しかし、それ以前に、内務省地理局が日本全国の詳細な地形図を整備する という遠大な計画のもとに、地図作成の基幹作業に入っている。  それは、明治8年(1875)に関八州全域にわたる大三角測量(一等三角測量に 相当する測量)に着手した。そこで、この「関八州大三角測量網」に長さを与えるた めに、栃木県の那須野が原に10km余りの「那須基線」が設けられた。  基線の設けられた場所は、現在の大田原市と西那須野を包んで走る大規模農道の西 側の部分に相当する。そして、この「那須基線」に標高を与えるために、宮城県の塩 竃湾と東京湾の間で水準測量(高低測量)が行われることになった。この事業は、お 雇外国人であるイギリス人測量師長マックヴィン氏などの指導のもとに、明治9年8 月(1876,8)から開始され、水準路線の選定、石標の設置、観測データの計算 整理などに、まる1年かけ、翌10年8月(1877,8)に終了した。 これらの測量を開始するにあたり、明治9年6月に内務卿(内務大臣大久保利通) から、布達状(官庁などが広く一般に触れ知らせる書状)が出され、内務省で設置し た水準点には「不」の記号(几号)を不朽物等に彫刻して標識として活用するように、 また、適当なものがない場合には「不」の記号を付した石標を埋設するよう布達して いる。これはイギリス式であり、この「不」の水平(横棒)の彫刻の位置が標高を示 す位置である。  ところが、この測量事業は直接的には日の目を見ることはなかった。というのは、 測量及び地図作成事業は、明治17年に軍部に移管され、その測量方式もドイツ式に 取って代わり、以後、イギリス式の測量成果は全て抹殺されてしまったからである。  ここに紹介するのは、軍事に関与することなく独自の歩を進めていた文官系の内務 省地理局が水準測量で設置した水準点(高低測量几号標)が、奥州街道沿いの随所に、 今も密かに息ずいているのを数多く発見したその記録である。 奥州街道全体で百十余点ほど設置されたらしいが、現在までに発見若しくは現況を 確認できたのは、その半数ほどである。           建設省国土地理院 地図部写真地図情報課  関 義治

1 東京府管下 靈嚴島水位几号石 不明 東京 2−4東京首部  
2 東京府管下 京橋石欄干石柱北ノ方   東京 2−4東京首部  
3 東京府管下 一石橋際迷子知ルヘ石   東京 2−4東京首部  
4 東京府管下 萬世橋石欄干南ノ方 不明 東京 2−4東京首部  
5 東京府管下 上野広小路常楽院地蔵台石        
6 東京府管下 上野信濃坂下供養台石        
7 東京府管下 下谷金杉神社玉垣石柱 不明 東京 2−4東京首部  
8 東京府管下 下谷新道通リ町圓通寺百觀音石   東京 2−4東京首部  
9 東京府管下 千住南組素戔男神社石華表   東京 2−4東京首部  
10 東京府管下 千住北組五丁目鎮守八幡社内石碑        
11 東京府管下 保木間村字増田増田橋石崖 亡失 東京 2−3草加 高低測量几號標之記
12 埼玉縣管下 瀬崎村淺間社石造手洗 移設 東京 2−3草加 高低測量几號標之記
13 埼玉縣管下 草加驛六丁目神明社華表 転倒 東京 2−3草加 高低測量几號標之記
14 埼玉縣管下 西方村行人塚大相模不動道標        
15 埼玉縣管下 大澤町字天神前管社華表 移設? 東京 1−4越谷 高低測量几號標之記
16 埼玉縣管下 大枝村字屋敷前普門品供養塔   東京 1−3野田市 高低測量几號標之記
17 埼玉縣管下 粕壁駅上宿神明道標        
18 埼玉縣管下 堤根村二百六番屋敷九品寺青面金剛供養塚 移設 宇都宮 4−4宝珠花 高低測量几號標之記
19 埼玉縣管下 下高野村字小谷塚株厳島境内石燈籠 移設 宇都宮 8−2久喜 高低測量几號標之記
20 埼玉縣管下 茨島村下高野村界標路傍石橋石崖        
21 埼玉縣管下 幸手驛字馬之助神明社石燈籠 転倒 宇都宮 8−2久喜  
22 埼玉縣管下 小右衛門村香取八幡社華表   宇都宮 8−1栗橋 高低測量几號標之記
23 埼玉縣管下 栗橋渡場舊關所址石崖 亡失 宇都宮 8−1栗橋 高低測量几號標之記
24 茨城縣管下 中田町香取八幡社華表 移設 宇都宮 8−1栗橋 高低測量几號標之記
25 茨城縣管下 古河驛中央掲示場石崖 不明 宇都宮 7−2古河  
26 橡木縣管下 野木驛字二丁目七五三引稲荷華表 移設 宇都宮 7−2古河 高低測量几號標之記
27 橡木縣管下 友沼村法音字門内供養塔   宇都宮 7−2古河 高低測量几號標之記
28 橡木縣管下 間々田驛南口住正寺門前十九夜塔 移設? 宇都宮 3−3小山 高低測量几號標之記
29 橡木縣管下 粟宮村字東道上觀世音塔 移設 宇都宮 3−3小山 高低測量几號標之記
30 橡木縣管下 小山驛須加神社石造幟 移設? 宇都宮 3−3小山 高低測量几號標之記
31 橡木縣管下 喜澤村字溜端陸羽結城追分角新設 不明 宇都宮 2−4小金井 高低測量几號標之記
32 橡木縣管下 小金井上町十九夜塔 移設 宇都宮 2−4小金井 高低測量几號標之記
33 橡木縣管下 小金井下石橋両村界標向新設石標        
34 橡木縣管下 石橋驛南口字花ノ木妙法供養塔   宇都宮 2−3壬生 高低測量几號標之記
35 橡木縣管下 銷堂新田字西裏星宮神社華表 亡失 宇都宮 2−3壬生 高低測量几號標之記
36 橡木縣管下 雀宮北口馬頭観世音供養塔        
37 橡木縣管下 台新田字堀越妙法寺供養塔        
38 橡木縣管下 宇都宮南口蒲生君平里 移設? 宇都宮 1−2宇都宮東部 高低測量几號標之記
39 橡木縣管下 宇都宮駅中奥州日光街道追分道標台石        
40 橡木縣管下 今泉村字高尾神六拾六部塚        
41 橡木縣管下 海道新田十三番地供養塔臺石   宇都宮 1−1宝積寺  
42 橡木縣管下 白沢駅西鬼怒川西岸勝善神塚        
43 橡木縣管下 上阿久津村字大坂二十三夜塔        
44 橡木縣管下 氏家駅中央里程標        
45 橡木縣管下 挟間田村彌五郎坂下一ノ堀橋際大黒塚   白河 16−4喜連川  
46 橡木縣管下 喜連川荒川旧馬頭観世音台石        
47 橡木縣管下 喜連川北口内川南岸字河原町東供養塚        
48 橡木縣管下 下河戸村引田御野立場 新設      
49 橡木縣管下 佐久山驛南口百五拾番地觀世音堂境内   白河 16−3佐久山  
50 橡木縣管下 佐久山驛北口浄正寺門前川越阿彌陀ノ女來石塚   白河 16−3佐久山  
51 橡木縣管下 浅野村字六本松妙法供養塔        
52 橡木縣管下 太田原南口日光街道示道標傍 新設      
53 橡木縣管下 太田原上町金燈籠臺石 移設 白河 15−4大田原 高低測量几號標之記
54 橡木縣管下 中田原村蛇尾川北方黒羽道舊供養塔臺石 移設? 白河 15−4大田原 高低測量几號標之記
55 橡木縣管下 市野沢村界標傍新設石標        
56 橡木縣管下 練貫村字下町觀音坂下十九夜塔   白河 15−3黒磯 高低測量几號標之記
57 橡木縣管下 鍋掛那珂川西岸馬頭觀音石塚   白河 15−3黒磯 高低測量几號標之記
58 橡木縣管下 越堀那珂川東岸村界標 移設 白河 15−3黒磯 高低測量几號標之記
59 橡木縣管下 寺子村街道中央大黒天台石        
60 橡木縣管下 寺子村字黒川壷里程標        
61 橡木縣管下 蘆野驛奈良川高橋際石地藏 移設 白河 15−1伊王野 高低測量几號標之記
62 橡木縣管下 横岡村字峯岸地内牛石   白河 15−1伊王野 高低測量几號標之記
63 橡木縣管下 寄居村字大久保壷瓢箪石        
64 橡木縣管下 寄居村両国界標石崖        
65 福島縣管下 皮篭村吉次八幡脇石地藏   白河 14−1白河 高低測量几號標之記
  福島縣管下 川崎村踏瀬愛宕神社華表   白河 9−4矢吹 高低測量几號標之記
  福島縣管下 矢吹驛北町下ノ地藏臺石   白河 9−4矢吹 高低測量几號標之記
  福島縣管下 郡山驛阿邪訶根神社華表 移設? 福島 12−2郡山 高低測量几號標之記
  福島縣管下 福原驛本栖寺名号碑臺石   福島 12−1三春 高低測量几號標之記
  福島縣管下 日和田驛蛇骨地藏尊石塚   福島 12−1三春 高低測量几號標之記
  福島縣管下 仁井田村申供養塔臺石   福島 12−1三春 高低測量几號標之記
  福島縣管下 本宮驛安達太良神社石門柱 移設 福島 11−2岩本本宮 高低測量几號標之記
  福島縣管下 杉田村字南杉田薬師堂石燈籠   福島 11−2岩代本宮 高低測量几號標之記
  福島縣管下 八丁ノ目驛奥州八丁目天満宮華表   福島 11−1二本松 高低測量几號標之記
  福島縣管下 清水町西裏出雲大神宮石燈籠   福島 10−2福島南部 高低測量几號標之記
  福島縣管下 五十邊村茶屋下信夫毛チ摺觀世音道標   福島 10−1福島北部 高低測量几號標之記
  宮城縣管下 舘腰村六軒道祖神路   仙台 4−1仙台空港 高低測量几號標之記
  宮城縣管下 増田驛増田神社石燈籠   仙台 3−2仙台東南部 高低測量几號標之記
  宮城縣管下 仙臺市河原町桃源院 亡失 仙台 3−2仙台東南部 高低測量几號標之記
  宮城縣管下 市川村奏社祠近路傍石   仙台 3−1仙台東北部 高低測量几號標之記
  宮城縣管下 塩竈村鹽竃祠華表傍新設石標   石巻 15−3塩竃 高低測量几號標之記
  その他 作並興源寺跡地 地中埋没 仙台 7−1熊ヶ根 高低測量几號標之記
  その他 仙臺経緯度測點 移設 仙台 3−2仙台東南部 高低測量几號標之記
  その他 仙臺経緯度測點方位標? 地中埋没 仙台 3−2仙台東南部 高低測量几號標之記
  宮城縣庁設置 宮城縣里程元標仙台市芭蕉辻 亡失? 仙台 3−3仙台西北部  
  宮城縣庁設置 距仙臺元標壹里   仙台 3−2仙台東南部  
  宮城縣庁設置 距仙臺元標七里   仙台 4−4亘理 高低測量几號標之記
  宮城縣庁設置 距仙臺元標十五里   福島 5−3白石南部 高低測量几號標之記

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First issue Jan. 12 1997(Rev.0)