夢の金剛山周遊記(1日目)


1日目(内金剛から毘盧峰まで)


 夜行列車に乗り終点内金剛駅を目指す。未明の末輝里(マルフィリ)駅の近くで目覚めると、車窓から白馬峰(ペクマボン)、遮日峰(チャイルボン)、日出峰(イルチェルボン)、月出峰(ヲルチェルボン)の連山を遠望できた。そのなだらかなスカイラインの下に広がる複雑に入り組む渓谷と、岩峰群を想像し、これから向かう内金剛への期待が高まる。
 内金剛駅前で朝食の後出発する。今日の行程は、駅前の標高が約483メートルなので、標高差約1、100メートル、距離約12kmの行程である。
 まずは、平凡な百川洞の谷を長安寺(チャンアンサ)を目指す。道が北に折れると、前方奥に最高峰の毘盧峰から望軍台(マングンデー)の岩峰、遮日峰に至るパノラマが広がってくる。しばらく圧倒的な風景を見ながら歩くと長安寺に着く。内金剛の各谷は、古来から山岳修行の場として、多くの寺や庵が点在している。なかでも長安寺は、新羅時代の創建以来、千四百余年の歴史を有する大伽藍である。
 長安寺からしばらく渓谷を遡ると、右から流れ込む沢がある。この沢の上流は、釈迦峰(ソクカボン)を始めとする幾多の岩峰の裾を回り込む渓谷となり、百塔洞(ペクタドン)から水簾洞(スレンドン)を経て岩壁を鎖をたよりによじ登れば、内金剛随一の望軍台(マングンテー)に至る。しかし、今回は、本日中に毘盧峰まで足を伸ばすため残念ながら割愛せざるを得ない。
 さらに渓谷に沿って進み、三体の仏像を刻んだ三仏岩(サムブルバオ)、白華庵(ペクファアム)を経て表訓寺(ピョクンサ)に着く。ここから後方の急坂を正陽寺(チョンヤンサ)まで登ると、将軍台から延びる無数の岩峰群を正面に望むことができた。
 表訓寺に戻り、しがらく進み金剛門(クムガンムン)をくぐると、今日のクライマックスの万瀑洞(ブンポクドン)の入り口となる。既に太陽が高い位置から谷を照らすようになり明るくなってきたが、万瀑洞は両側に岩壁がせまり、薄暗さに包まれた中から轟音が響いてくる。万瀑洞は2kmの距離で、標高差が約200メートルあり、その間花崗岩の上を水流が削り、滝、滑、瀞が連続して現れてくる。対岸の断崖に、一本の鉄柱で危うく支えられた普徳窟(ポトックル)が見えてくる。このあたりに点在する建物は、千年を越える歴史を持ち、世俗を越えた難行苦行が行われた場所である。
 やがて、道の傾斜が緩くなり、谷が広がってあたりが明るくなる。しばらく広葉樹のなかの快適な道を行くと、摩訶衍庵(マラヨンアム)に着く。ここから北に万灰庵(マンフェアム)、迦葉窟(カサックル)を経て尾根を越えて、内円通庵(ネーヲントンアン)に抜ける道も有る。さらに進んだ妙吉祥(ミョキルサン)には、大きな磨崖仏が見える。その穏やかな顔を拝みながら、いつの人がどんな思いで刻んだのか、昔に思いを馳せる。
 さらに上流の四仙橋(サーソンキョ)より道は二手に分かれ、右に行けば内霧在嶺(アンムチュリョン)の鞍部を越えて、楡占寺(ムーチュムサー)に達し、途中の隠仙台(ウンソンデー)から対岸に見える十二瀑(シビイポク)は、落差約200メートルの岩盤上を12段になって流れ落ちる滝で、このあたりを新金剛という。また、左の道はこれから向かう毘盧峰越の道となる。
 四仙橋から毘盧峰山頂まで標高差約700メートルで、今日一番の辛い登りである。初めは渓流に沿った登りであったが、本流を離れ右手の沢に取り付くと、電光形の本格的な登りとなった。しばらく、一定のペースを守って登り続け、後を振り返り望軍台がほぼ同じ高さとなったころ、急坂も半分消化したことになる。途中何回か小休止をはさみ、金梯、銀梯の難所を越えると、やがて斜面が緩やかになって尾根上に達する。反対側の谷から風が心地良く、右にしばらく登ると頂上に達した。
 既に日が西に傾き、今日登って来た内金剛の渓谷や、今まで見えなかった外金剛の山々も、闇に包まれつつあった。今日の宿泊地の山荘へ急ぎ下る途中から見た夕焼けは、明日の好天を期待するのに十分でだった。


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長安寺

長安寺は金剛山四大寺に一寺、堂殿伽藍の壮麗、希に見る巨刹である。其創建は新羅法興王の時なるも今の建築は李朝中期の再建である。

望軍台

兜率庵の左手に径を索め断崖の下に達し、設けられた鉄鎖を頼りに登り詰めると望軍台の頂点にでる。其所には十数人が座れる程の平面の盤石がある。

三仏岩


鳴淵潭の先き迎仙橋を渡ると、三仏岩の大石仏がある。李朝初期に高僧頼翁の願仏なりとて名高い。

表訓寺

表訓寺は長安寺と共に山内四大寺の一つ、本堂殿若宝殿には丈六の法起菩薩を安置して居る。

万瀑洞

万瀑洞八潭の一、碧波潭

法起山に懸る普徳窟

法起山は伝説に、曇無竭菩薩の化身と称し、金剛山中最も尊き山峯とされて居る。此峯の中腹に普徳窟と云う襌庵がある。

妙吉祥

摩訶衍から内霧在嶺の途をとり数町に妙吉祥の大石仏がある。座身長六十尺余金剛山中最大の仏像である。

十二瀑

十二瀑は松林寺から約半里の上渓に在る新金剛の代表的景致である。

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First issue Jun.30, 1996.